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最近観た映画「立ち去った女」

  最近観た映画「立ち去った女」

 初めてフィリピン映画を観た。「監督、脚本ラヴ・ディアス、主演チャロ・サントス・コンシオの「立ち去った女(THE WOMAN WHO LEFT)」である。

映画批評を読んで気がつき観る事となったが、不明にしてその監督が既に世界的に著名な存在と知らず予備知識無しであった。

 冤罪によって30年に亘り収監されていた主人公の女性が、意外にも真犯人である同囚の親友による彼女の無実の告白で出所し、彼女に罪を着せ今や大富豪となった昔の恋人を追って孤独な復讐の旅に出るストーリー。

 古典の短編小説 レフ・トルストイの GOD SEES TRUTH,BUT WAITSに想を触発された脚本は,全ての人間にそしてまた全ての事柄には2面性があり人間の本質には矛盾が併存される事を、復讐劇と言う意外な設定の中で監督は人間存在にたいする根源的な優しさの眼差しをもって描いている。

復讐を通じて被害者はまた加害者たらざるを得ないジレンマを、強さと優しさを同時に抱える主人公の苦悩が昼と夜の際立った振る舞いの違いに表され、その映像は深い闇に包まれた夜の情景と陰の美しさに表徴される。

何よりも出色な創造的人物設定としての初老と言うべき役柄の主人公の、両性具有とも感じられる際立った昼夜の相貌の違いに艶やかな官能性が込められ、抑制の利いたモノクロームの映像に魅了される。それが此の映画が荒ぶる復讐劇と言う設定を超えて展開する、罪と許し、愛と憎しみ、苦悩と救済といった矛盾に満ちた人間存在にむけた優しい眼差しという奥行きをつくっている。

モノクロームの映像は明暗のコントラストが強調され、陰の美しさが此の映画自体を象徴している(モノクロール映像の印象深さは、キャロル・リード監督やフレッド・ジンネマン監督作品のキャメラを彷彿とさせる)。

怪物とも評される監督の独特な長尺映画。観る者に覚悟を迫るワンシーン・ワンカットの固定カメラの長回し。クローズアップ無しの流れる様な日常性の映像に宿す幻想性。

 2012年に観た、監督パオロ・ソレンティーノ、主演ショーン・ペーンの「きっと此処が帰る場所(THIS MUST BE THE PLACE)」以来の久しぶりに、観る醍醐味を味わった3時間48分であった。

これはいかなる宗教にもなし得ない、映画によって全ての人々に示された「魂の救済」と言うべきものだ。傑作・必見。

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